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レニン—アンジオテンシン系と虚血性心疾患
レニン—アンジオテンシン系が,血管トーヌス噌加・血管増生・心筋収縮・心肥大など心血管系調節に重要な働きをしていることは,広く認められているが,もともとレニン—アンジオテンシン系の研究は高血圧の原因メカニズムを中心に開始された.従来より腎臓と高血圧がレニンを媒体として密接な関係にあることが報告されていたが,レニン自体に昇圧作用はなく,レニンの作用により生じたアンジオテンシンが真の昇圧物質であることが示された.さらにレニンは,不活性型のデカペプチド(アンジオテンシンI)を活性型のオクタペプチド(アンジオテンシンII)に変換させることが明らかとなった.このアンジオテンシンIIは強い血管収縮作用を有し高血圧関連物質と考えられているため,現在ではACE阻害薬が降圧剤の一つとして広く用いられている.さらに,IosantanやTCV−116などアンジオテンシンII阻害薬が開発され,より効果的にアンジオテンシンの心血管作用を抑制するとして新しいタイプの降圧剤として期待されている.
ところで,虚血性心疾患・慢性心不全患者では,高血圧がないにもかかわらずレニン-アンジオテンシン系が活性化されるが1,2),そのメカニズムとしては,主に三つの因子が関与する.その一つは,虚血性心疾患や慢性心不全では心筋β受容体数の増加・心筋カテコラミンの遊出・圧受容体反応性の異常により,交感神経系が賦活化されるが3),βアドレナリン受容体刺激は,腎臓のレニン—アンジオテンシン系を賦活化させる点である4).第二点は,虚血性心疾患・慢性心不全では,末梢循環不全が生じるが,腎臓の灌流圧・灌流量が低下するとレニンが遊離し,アンジオテンシンII産生を促進する5).さらに第三点目として,心筋虚血や機械的伸展刺激が心筋組織内でのレニン-アンジオテンシン系を賦活化する.虚血心・不全心におけるレニン—アンジオテンシン系の賦活は,1)末梢動静脈血管のトーヌスを亢進し,2)アルドステロン・バゾプレッシンの分泌亢進や腎臓への直接作用により体液貯留をもたらす.これらは,短期的には,心拍出量や血圧の維持に有用であるが,長期的には,過度の前負荷・後負荷の増加のため,肺うっ血や心拍出の低下をもたらし,虚血・心不全を悪化させる.また,3)心筋蛋白合成遺伝子の発現を促進させ心筋細胞肥大を起こすとともに,4)線維芽細胞の増生を促進させて,心筋間質の線維化やコラーゲン産生量を増加させる.これらは,心筋リモデリングの促進を介して,心筋収縮・拡張機能を低下させ,また冠血流からの酸素拡散を低下させる.さらに,5)アンジオテンシンは心筋に対し,陽性変力作用を示すが,過度の細胞内Ca2+濃度の増加は,心筋細胞障害を増強させる6).このように,レニン-アンジオテンシン系の賦活化は,心・血管系機能を増悪させるため,ACE阻害薬は,このような変化に対し,保護的に働き,その有効性を発揮するものと思われる7,8).実際,慢性心不全患者の生命予後は,血漿中レニン活性が高いほどよくないことが知られている9).
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