Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
急性大動脈症候群〔Acute Aortic Syndrome(大動脈瘤,大動脈解離の破綻)〕は,虚血性心疾患など末梢臓器の動脈疾患と比較し,循環器医にとって未だ不明な点が多い.現在まで早期にかつ先制的に診断する方法は皆無とされてきた.突然発症し症状を来して救急搬送された時点では,既に後手に回っている場合が多く,たとえ搬送に成功しても破裂に至った場合は,院内発症においてさえも救命が困難である.破裂性大動脈瘤の死亡率は英国と米国ではそれぞれ65.09%と53.05%であり,手術に至ることのできる症例でもその死亡率はそれぞれ41.65%と41.77%である1).久山町研究によると,大動脈解離や大動脈瘤での死亡は原因不明死の20%であり,増加傾向である2).早期発見を志向しても,現行のいかなる画像診断や検査法を駆使しても極めて発見,診断することは難しく,先制診断,早期治療に結び付けることは困難である.日米欧のガイドラインを見ても,大動脈瘤,大動脈解離の疾患分類からして少しずつ異なっている.それぐらい概念が一定していない未開拓の分野であるといえる.その理由は,未だ血管造影やCT,MRIをしのぐ検査法がなく,どのように瘤化するのか,破裂に至るのかといった病態の解明が十分には進化し得ていないことが考えられる.約半世紀前,冠動脈疾患は冠動脈造影などの導入により,その臨床病態が詳細に観察可能となり,診断,治療法が進歩し,約50%の死亡率が5%程度に劇的な改善を遂げたが,大動脈疾患においては診断,観察技術は未だ未成熟の状態に止まり今後解決すべき問題が数多く残されている.
大動脈瘤の手術適応は,瘤の大きさ,あるいは瘤の拡大の進行速度である.それは径が大きかったり,その拡大速度が速ければ破裂の危険性が高まるからであり,それは理にかなっている.しかし径の拡大が軽度であっても,頻度は比較的少ないながらも破裂の危険が少なからず認められる(図1)3).したがって,これらの手術適応では破裂を十分に防ぐことはできない.では,どのように治療適応を設定するか? 自然歴をみた研究でも十分なことは言えず,いずれも確率論であるためである.冠動脈の場合,比較的画像診断に適した条件があり,技術的な進歩も相まって病態解析の研究が進んだが,一方で大動脈はその生命維持に係る役割や,物理的な諸条件が障害となり,診断技術の介入が困難であったことや生体個々の条件の違いなどが重なり,診断基準が大雑把であっても,径を比較する以外適切な手段が存在しなかったためと考えられる.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.