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はじめに
ショック(shock)を定義することは,多くの問題があってむずかしいが1),Rhoadsによれば「ショックとは何らかの原因による実効血流量の障害である」と定義している2)。
実効血流硫の障害により,種々の栄養素が組織に運搬されなくなり,組織の栄養が不足し,細胞は機能的にも形態的にも変化をおこす。Shockにより組織に最も早く影響を与える因子として,酸素供給の不足がある。血流量の滅少により,組織への酸素の供給が不足して,組織が低酸素状態(hypoxia),さらに無酸素状態(anoxia)になる。
このようにして生じたhypoxiaおよびanoxiaで最も大きい変化をうけるのは,含水炭素の代謝系である。一般に好気的条件においては,解糖(glycolysls)により生成された焦性ブドー酸(pyruvic acid)は,クエン酸回路(tricarboxylic acid cycle,Krebs cycle,TCA cycle)を経てCO2とH2Oに分解されるが,anoxiaまたはhypoxiaではTCA cycleが障害されてpyruvic acidまたは乳酸(lactic acid)になる(Fig.1)。
Pyruvateとlactateの変換は,乳酸脱水素酵素(lactic dehydrogenase, LDH)により触媒されるが,この反応には助酵素としてNAD (nicotinamide ade—nine dinucleotide)が関与する。
Pyruvic acidがlactic acidに変わる間に,NADH2はNADに変換(酸化)される。好気的条件においては,NADH2は電子伝達系を経て,電子が,酸素に伝達されることにより酸化される。嫌気状態になると,電子伝達系は障害されてNADH2の蓄積がおこる。電子伝達系は,細胞のミトコンドリアにおいて行なわれ,この間に生命維持に必要なATPの生成が行なわれる。Anoxiaにより,電子の受容体であるO2の不足によって,NADH2の酸化が障害されるが,呼吸鎖の酵素系も障害される。すなわちChoら3)により,出血性ショック(hemorrhagic shock)をおこした動物の心筋ミトコンドリアにおいて,呼吸酵素が活性低下を示したことは,興味ある問題である。このようにして,NADH2の呼吸鎖による酸化が障害されるので,NADH2の酸化はLDHに依存するようになる。
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