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はじめに
病院機構の近代化にともない,最近P.P.C.(prog—ressive patient care)という概念が提唱されている。これは患者を重症度別に収容し,重症者に集中的な監視治療を行なうことによって人員を節減し,あわせて治療の強化をはかるシステムである。術後の患者にたいする回復室や,さらに濃厚な治療を要する重症患者を対象としたI.C.U.(intensive care unit)はその一例である。同様に,C.C.U.(coronary care unit)は心筋硬塞という特定の疾患を対象にしたP.P.C.であるといえよう。
急性心筋硬塞はきわめて特徴的に病像をもつ重篤な疾患で,死亡率は30〜40%1)17)に達するといわれている。特徴の第一は,心室細動などの不整脈による死亡が約半数を占めている事実であろう。表1は171名の死亡例について,Meltzer2)が死因を分析したものであるが,不整脈にもとづく死亡が多いことは,これを容易に除去しうる現在,とり上げるべき有意なテーマである。
第二の特徴は図1に示されるように,死亡の分布が初期の数日に集中し,突然死が少なくないという事実である2)。このことは逆にいえば,最も危険な初期の数日を適切な治療によって乗り切ることができれば,心筋硬塞の予後はこれまで考えられていたほど悪くないことを意味するものである。これがC.C.U.設立の背景になった思想である。
従来,この疾患には絶対安静が要求されていたが,これは明らかに誤った考えであり,一刻も早く完全な監視設備を備え,除細動器などの有力な武器を擁する心蘇生チームが常駐する特殊病室(C.C.U.)に移送されなければならない。D-C除細動器の開発は,ペースメーカーや薬剤による不整脈治療法の進歩とあいまって,C.C.U.の開設を技術的に可能にした。ここにおいて1962年,Kansas市のBethany Hospitalに,最初のC.C.U.が設置されたのである3)。
アメリカにおける心筋硬塞の脅威は,わが国における癌をもはるかに凌ぎ,1965年には56万人がこの疾患で死亡したといわれる2)。
C.C.U.がアメリカにおいて誕生したのはけだし当然であり,その後欧米を中心に急速に普及し,大きな治療効果をあげている。
わが国においても心筋硬塞による死亡は近年増加の一途を辿り,昭和40年には5万人に達した4)。しかるに一般の認識はまだ低く,大病院では緊急患者の受け入れ体制が整っていないところから,心筋硬塞は的確に治療されているとはいいえないのである。C.C.U.設立の機運は一部にたかまりつつあるが,われわれは去る昭和42年8月25日,4床からなるC.C.U.を開設した。以下C.C.U.の問題点を解説し,東京女子医大における治療の実績を述べて参考に供したいと思う。
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