Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
血管弾性を考える場合に血管壁は一般に粘弾性物質(visco-elastic material)であるために,その弾性に関与する因子として粘性と弾性のそれぞれについて検討する必要があり,また血管運動は脈動性であるために,constantに加わっているいわゆる平均血圧に対する弾性と,脈圧変動に対する弾性とを考慮すべきである。すなわち血管弾性には内圧依存性と周波数依存性の両者を同時に検策の対照とせねばならないという特異性をまず認めねばならない。粘弾性物質の代長として飴棒を考えてみると,この物質はゆっくり引伸すと,とくに加温するといくらでも伸びるが,強い力を急激に加えると金属と同様の弾力性があって,その限界を越えた外力によっては切断,折れなどが生ずる。またある程度引伸して放置すると再び原寸法に復帰する性質もある。換言すればその物質の変形をおこす力stress(応力)と生じた変形strain(歪)との間の関係はstressの加わる速さによってまったく異なったstrainを生ずるわけである。この応力歪の関係から
弾性率(係数)=stress/strain………………………(1)
の式で表現して弾性の物理学的定義とする1)。ここで弾性率の絶対値は加わったstressに対しstrainが小さければ大きく,弾性率の大きい程その物質は硬いという。
弾性表示の最も簡単で基本的なものはHookの法則で(1)式そのもので,その弾性率をまたYoung率という。理想的Hook弾性体とはすなわち各種各様のstressによってもYoung率が常に一定値をとる物質で,一般に金属やガラスなどはこれに属する。しかし鉛やアンチモンなどは金属でも飴と同様に特定のstress条件下にのみHook弾性体と認められる。このようにいかなる種類のstressに対しても弾性率が一定値をとるということは,電気回路上で交直流をとわず電圧をstressに電流をstrainと考えた時のいわゆる抵抗Rに相当する性質であって,すなわちHookとOhmの法則はまったく同意義で同価であるといえる。そしてこの二法則はその物質が耐えうるstressの可変許容範囲内でのみ成立し,その限度を越えた強いstressによっては永久変形,破壊,熱発生などの別の形の不可逆性strainを生ずる(図1)。
一方粘性とは物質変形のさいに物質内の微小部分間に生ずる滑りやズレで,この磨擦により熱を発生する。これはdivingのとき下手をすると胸や背中をいやという程水面で打つのと同じ効果で,同じ水に入るにしてもゆっくり入水すればstrainがまったく異なるのと同じ現象である。すなわち落下速度によりstrainが左右され,strainはstressの速さが関係する。速さとは同じ深さまで入水するのならばその時間因子が最も重要な因子である。結局この現象は総合された弾力性のうち周波数依存性のある部分によって生ずる。そこでこの粘性による物質の変形にさいしてはstressとstrainの間にいつもズレ(位相差)を生ずるので,図1の点線のようなstress-strain関係を発見することになる。
以上の弾性と粘性に加えて精確には慣性因子があるが,この慣性因子に関与するstress-strain関係の係数はその物質の質量であって,血管の場合,この質量の絶対値は他の2係数に比べて1/100程度と小さいので2),問題の複雑化をさけ,また紙面の関係もあって一応その効果を本文では無視せねばならない。
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.