特集 外科患者・薬物療法マニュアル
Ⅰ.救急患者のプライマリ・ケアにおける薬物療法
3.出血性ショック
渡邉 千之
1
,
石山 賢
1
1自衛隊中央病院外科
pp.14-15
発行日 1992年10月30日
Published Date 1992/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407900919
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基本的事項と治療の原則
出血性ショックは,外科の臨床で遭遇するhypovolemic shockの代表的なもので,病態の本質は血管床からの急速な全血喪失による循環血液量減少の結果,心臓への静脈還流が低下して心拍出量が減少することにより惹起される末梢組織の循環不全である.これに体液分布の不均衡と血液の酸性化が加わり全体的病態像が構成される.すなわち,体液(細胞内液,組織間液,血漿)のうち組織間液は末梢組織細胞の環境維持に重要な役割を果たすが,ショックや手術など各種の侵襲時にその一部がthird spaceを形成し,本来の細胞外液としての機能を失い非機能的細胞外液となる.出血性ショックでは喪失した血球と血漿の量だけでなく,この非機能的細胞外液量も循環血液量の不足に加算されるため,治療に際しては喪失全血量の補充だけでは不十分である.また,末梢組織の循環不全による酸素供給不足で嫌気解糖が亢進し,血中に乳酸が蓄積して代謝性アシドーシスとなる.さらに輸血に使用される血液も保存中に嫌気解糖が起こり酸性化していることや,添加してあるクエン酸により酸性を呈するので輸血するとアシドーシスが助長される.アシドーシスが進行すると呼吸中枢の抑制,心筋収縮能低下,カテコールアミン抵抗性の血圧低下を惹起し,末梢循環不全を増悪させる.
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