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はじめに
慢性肺気腫は周知のごとく,現在「終末細気管支から末梢の含気区域で,その壁の破壊的変化のためその大きさが尋常範囲を越えて増した状態」という形態レベルで疾患entityが確立されている。したがってこの定義に述べられた形態学的特徴が把握されてこそ初めて慢性肺気腫の正しい診断が下しうるのは当然のことであろう。
しかし臨床家にとってこれはきわめて至難な業であり,たとえ肺biopsyによって肺組織を摘出しえたとしても,microの視野がそのまま肺組織全体のmacroの視野へと普遍化し評価することにはかなりの危険が伴うことは無論のことではあるし,その上技術的にも日常臨床においてこれをroutine化することもきわめて困難である。とすると厳密にいえば臨床家の辞書には"慢性肺気腫"という用語がないともいえる。がしかし"形態と機能"との接点を目標とする臨床家とてこのまま停滞していたわけではない。無論本邦をはじめとする世界中の胸部医家が生理学的biopsyともいわれる近年,著しい進歩をみた各種の肺機能検査から得られたデータを総合し,肺気腫にみる固有な形態学的特徴を把握せんと努力を重ねつづけてきた。たとえば欧米においては表1に示すごとく,いろいろな呼吸生理学者といわず,胸部医家によって種々な試みがなされ,また本邦においても肺気腫研究会が中心となり"機能から形態へ"との努力がなされてきた。
表2に最近の代表的な1964年のBatesら1)のcriteria,表3に1962年肺気腫研究会による慢性肺気腫の診断基準を示す。表3にみるごとく,本診断基準は主として本邦における症例の整理,統合を主目標としたもので,とくに註の項に付記されている「臨床家のみている慢性肺気腫は一つの症候群であり,これと形態的肺気腫との関連については将来の問題とする」という表現は該時点において誠に当を得たものといえよう。
さてこれらの臨床家の努力にもかかわらず,最近までAmerican Em—physema-British Bronchitis3)としていみじくも表現されているような混乱の渦中に多くの世界中の胸部医家があった。そこでわれわれはこの混乱から脱脚しうるthru-wayは肺気腫をなんとかして生前に形態レベルで診断することにあると考え,選択的肺胞—気管支造影法(Selective alveolo bronchogra—phy,以下SABと略す)が生まれたわけである。本法の詳細に関しては第17回日本医学会総会における総会講演"肺気腫"のテーマで発表し,さらに文献3)に記載してあるので,その方法論,さらには読影の基準およびその他の主要な点に関して,興味ある読者には参照されたい。そこで今回はとくにSABの造影所見から得られた形態レベルでの病態の把握と,各種肺機能検査によって得られた病態生理学的所見との対比検討のみを中心として述べてみたいと思う。
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