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循環器疾患の種類や発生とその頻度については地域的特性があり,また異なった名称のものでも内容の同じものもあり,同じ疾患名でも内容の異なるものがある。循環器疾患の中でも感染症(梅毒,細菌性心内膜炎,リウマチ)によるものは文化と経済の上昇と逆比例して減少している。寒冷地では温暖熱帯の地方より高血圧が多い。
Chagas心臓病は南米に局在しているし,心内膜心筋線維症(endomyocardial fibrosis, EMF)は熱帯,亜熱帯地方とくにアフリカに多発する。しかもEMFの発現する部位は東アフリカのUgandaや西インド諸島のJamaicaでは左心室の心内膜と心筋に病変としての線維化が現われる。これに対し西アフリカのNigeriaでは線維化病変は主として右心室に現われる。日本でみられるEMFはアフリカ心臓に比べればきわめて軽度であり,心室の流入路から小部分にわたって広がるにすぎない。WHOの主催する心臓ミオパチー(Cardiomy—opathy)研究委員会は心臓ミオパチーをEMFと特発性心臓巨大症(idiopathic cardiomegaly,I.C.)の二つに分けた(1967年11月Jamaica, Kingston)。わが国にみられる心ミオパチーは原発性心筋疾患(Primarymyocardial disease, PMD)と呼ばれることが多いがその大部分は家族性巨大心,心内膜弾力線維症(幼児)と特発性心筋線維症(idiopathlc myocardial fibros—is, IMF)ならびに心内膜心筋硬化症(endomyocard—ial sclerosis)である。原発性心筋疾患の微細構造や機能を研究するときには,その対象が原発性心筋疾患の中の何であるかを明らかにし,また理解しておくことが必要であろう。特発性心巨大症(IC)は従来の弁膜症,先天性短絡疾患,冠状動脈硬化,高血圧,肺性心,心筋炎などに因らず,原因不明で心臓が巨大になる心疾患と定義される。妊娠分娩性心疾患やミオパチーに伴う心疾患,さらにはChagas心臓は厳密な意味では特発性心巨大症には属さない。特発性肥大性大動脈弁下狭窄(IHSS)は特発性心巨大症の中には含まれず,また熱帯,亜熱帯には少ないという。日本における頻度は欧米より少ないような印象があるが,近頃,心血管映画法,薬物負荷心音図法などの適用で注意が喚起されたことにより報告症例数が増している。北米のように多くないとしてもそれほど稀とは思えない。熱帯地方においても感染症やEMFが制圧され,文化,経済と医学水準が上がれば,IHSSの発見率が増す可能性がある。
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