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はしがき
Dittmar1)2)の切断実験から延髄を初めとする中枢神経に正常血圧維持機構の存在することが明らかにされ,血圧反射中枢の存在とともに血圧調節における中枢神経系の重要性が認識されている。臨床的にも中枢神経障害にさいし高血圧の合併することが知られ,さらに近年本態性高血圧症の成因を血管運動中枢の持続的興奮の立場から追求せんとし,また,腎性高血圧においても神経性因子の意義が注目され多くの研究が行なわれている。
中枢性に血圧に影響する因子として,末梢血管抵抗および心拍出量の変化があげられる。前者を調節するものが血管運動神経で,体内のすべての臓器に分布する交感神経血管収縮線維および骨格筋にのみみられる交感神経血管拡張線維よりなる。したがって大部分の臓器においては神経性の血管拡張は交感神経血管収縮線維の緊張性放電の抑制によりおこるもので,血管拡張線維の関与によるものではない。次に心拍出量の変化を規定する因子のうち,心室収縮力は心臓交感神経により,また心拍数は心臓交感神経および迷走神経により,さらに,静脈還流を左右する容量血管(静脈)は交感神経血管収縮線維により,それぞれ調節されている。
これらの神経活動を統合する部位が延髄のいわゆる循環中枢(広義の血管運動中枢)であり,細かくいえば,心臓交感神経および交感神経血管収縮線維を支配する交感神経中枢(昇圧中枢Pressor center)と交感神経抑制中枢(降圧中枢depressor center)ならびに心臓迷走神経核とからなる。心臓迷走神経核は解剖,生理学的に局在がほぼ明らかにされており3),また機能的にも交感神経中枢と相反的に活動することが知られている。かかる循環中枢は求心神経および高位中枢により調節を受けている。
また,スウエーデン学派の唱えるsympathetic vasodilator system4)は骨格筋のみを支配し,大脳皮質,視床下部,中脳系の衝動によって活動し,延髄循環中枢を素通りして脊髄に達することが知られている。以上の関係を図1に示す。
中枢性血圧変動は上記の種々の神経性因子の複雑な反応のover-all effectsとして現われるものであり,従来の研究では血圧のみの観察に止まるもの,または個々の因子のみに着目するものが多い。Uvnasら4)の示すごとく,視床下部刺激により交感神経血管拡張線維の活動として筋の血流量が増加しても,他方,皮膚,内臓領域では血管収縮がおこり,全末梢血管抵抗,血圧は不変に止まる例もみられる。また,上田,井上ら5)は種々の臓器血流に分離支配のみられることを明らかにしている。すなわち,中脳の刺激にさいし,腎,消化管,下肢における血管抵抗の変化を同時に観察したが,各臓器における反応性は一様でなく,より背側部の刺激では腎血管の収縮,腹側部の刺激では消化管・下肢血管の収縮が強くおこり,各臓器に対する血管運動支配の局在を分離しえた。さらに例をあげれば,Randallら6), Rushmerら7)は心筋収縮のみを高め心拍促進作用を有しない線維を心臓交感神経中にみとめている。かかる線維の中枢支配についてはいまだ明らかでないが,興味ある研究課題であろう。これらの事実に鑑み,血圧のみもしくは一部臓器の循環動態のみの観察では,全身の重大な循環反応を見誤るおそれが生ずる。
以下,中枢性血圧調節の問題について文献的考察とともに著者らの研究を含めて展望を試みたい。
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