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講座 "環境と呼吸・循環"シリーズ・1
高地における運動能力
Human Performance at Altitude
猪飼 道夫
1
Michio Ikai
1
1東京大学教育学部体育学研究室
1Laboratory for Physiologic Research in Physical Education, School of Education, University of Tokyo
pp.577-584
発行日 1967年7月15日
Published Date 1967/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201791
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I.高地の問題
高地における運動能力が世界の話題にのぼるようになり,ある程度切実な問題としてとりあげられるようになった原因の一つは,オリンピック競技大会が海抜2,300mの高地メキシコ市で開催されるということになったからである。こうしたところで,競技を行なうという経験はきわめて少なく,1955年にパンアメリカンゲームズがメキシコ市で開催されたときに,米大陸の国々の人々が得た経験が最も代表的なものであろう。このときの記録をみると,長距離種目はすべて成績がわるく,短距離種目では,記録はあまりわるくなっていないということであった。なかでも注目されたのは,ダ・シルバが三段跳で16m56の世界記録で優勝したということであった。この当時,人々はいろいろ論議を行ない,跳躍の記録がよくなったのは高地での重力の加速度が減少したためだろうとか,空気の抵抗が減少したためだろうとかの理由をあげた。しかし,重力に関する計算では,記録にあらわれる影響はきわめて少ないであろうということになり,空気の抵抗の減少の効果は,走る速度の増加となり,それは3%の値に達するであろうというほどになり,跳躍の距離の増加は6%の値に達するはずであるといわれた。しかし,長距離とか持久性の種目の記録の低下は,以上の物理学的な利点が,酸素不足ということの生理的効果によって打ち消されて,大きな損害をうけるということになった。
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