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高地肺水腫(high-altitude pulmonary edema;HAPE)は,既往に心肺疾患のない健常者が,海抜2,500m以上の高地に急速に到達後,48〜96時間で発症する肺水腫である.北アルプスを中心とした中部山岳地帯で好発し,多くの症例が長野県松本市にある信州大学医学部附属病院へ搬送される.症例数は多い年で数例である.HAPEは速やかな低地移送により後遺症を残すことなく完治するが,救出が遅れると致死的な転帰をたどる.若年男性に多く,再発例が散見され,胸部画像検査で両肺に不均等に分布する斑状影が特徴である.われわれはHAPEの病態生理を解明するため,入院急性期に右心カテーテル検査や気管支肺胞洗浄(BAL)を行ってきた.
右心カテーテル検査では,肺血管抵抗の増大を伴う肺動脈圧上昇を認め,いわゆる肺高血圧症を呈していた.そこで,完全回復した既往者にご協力いただき,常圧低酸素負荷,低圧低酸素負荷,運動負荷の各条件で肺血行動態を評価したところ,健常登山家に比べ,いずれの条件下でも有意な肺動脈圧と肺血管抵抗の上昇を認めた.さらに,低酸素下で肺血流シンチグラフィを行うと,既往者にのみ肺血流の再分布現象を認めた.われわれの報告と,海外からの複数の報告を併せ,HAPEの発端は高度な低酸素性肺血管収縮(HPV)が不均等に生じ,肺血流が収縮の緩い部位に再分布する現象(overperfusion)であることが分かった.その結果,肺毛細血管内圧が上昇し,ついには破綻するため,肺水腫へ移行すると考えられている(stress failure).胸部画像にみられる不均等な斑状影は,この一連の経過を反映したものである.すなわち,HAPEは左心不全に依らない静水圧性肺水腫(hydrostatic edema)と考えられる.
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