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本号の特集「慢性炎症と循環器疾患」は様々な心血管系疾患の発症,進展における慢性炎症の意義を論じていて興味深い.特に動脈硬化との関係に注目が集まるが,高齢化の現代において罹患率が急上昇している心房細動についても,その発症に関わる心房筋リモデリングあるいは左房内血栓形成と炎症とは無縁ではなく,新しい治療標的として注目される.
さて,その心房細動治療において最も重要なのが抗血栓療法である.これまではワルファリンが唯一の抗凝固薬であったが,適応例に十分な処方が行われていないという現実がある.ワルファリンには,患者ごとに至適用量が異なり,ビタミンKを多く含む食物(納豆やクロレラ,青汁など)の影響を大きく受け,薬剤相互作用への注意が必要で,定期的な血液モニタリングによる用量調節が必要といった煩雑さがある.そうしたなかで,直接トロンビン阻害薬や第Xa因子阻害薬など,ワルファリンに代わる新しい抗凝固薬の開発が進められ,ようやく3月には直接トロンビン阻害薬ダビガトランの市販が始まった.その背景には,国際共同で実施されたRE-LY試験(2009年)で,ワルファリンに比べて出血事象を増加することなく,脳卒中や全身性塞栓症発症率を同等もしくはそれ以上に低下させたという事実がある.今後,心房細動診療においてダビガトランによる抗凝固療法が進むことになろう.しかし,日本人における安全性と有効性は未だ確認された訳ではなく,重篤な出血事例が報告されている現状を鑑み,日本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)」では適正使用を奨めるため,新たに「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」を準備している.
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