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慶應義塾大学スポーツ医学研究センター所長の大西祥平君(慶大医学部昭和52年卒)が57歳の若さで3月18日に亡くなられた.日本相撲協会アンチドーピング委員会の外部委員として,外人力士の廃業に繋がる違法薬物疑惑解明に尽力し,ニュースなどにも頻繁に顔を出していたのはちょうど一年前の事である.程なく発病し,故郷の姫路でご家族の下で療養されていると伺っていたので,突然の悲報に接し,ただご冥福をお祈りするばかりである.
振り返ると,慶大日吉キャンパスにスポーツ医学研究センターが設立されたのは平成元年で,体育会学生の健康管理と運動能力増進に力を入れていた時代であった.当初,学生の心電図チェックをしていた大西君から余りの異常所見の多さに相談を受けたことがある.データを見ると,圧倒的に不整脈が多く,高度洞性徐脈(30/分くらいは当たり前),洞停止,洞房ブロック,II度房室ブロック(Mobitz型を含む),多発性心室性期外収縮等々で,検診が始まった頃は,このために運動を禁止される学生が相次いでいたと言う.良く話を聞くと,キャプテンクラスのトップアスリートにこの傾向が強く,彼らが大きな大会に出場停止になることで体育会の活動自体に大きな支障が出た時期があった.今から見れば笑い話だが,まさにこれがスポーツ心臓の典型的な表現型であると認識されるまでに時間はかからなかった.暫くして,安静時の心電図所見のみから「病的」と判断される学生が居なくなったのは勿論のことである.トレーニングを積んだ結果として,運動予備能が高くなるほど安静時の調律異常は当たり前である事が明らかとされた.
最近ブームになっている市民マラソンであるが,走行中に倒れAEDの世話になって救命されたというニュースも時折耳にする.マラソン中の心事故防止のために事前心電図チェックを義務付けようという動きもあるようだが,一般人の基準をアスリートに当てはめる難しさを忘れてはなるまい.
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