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弁膜症は日常診療で多く遭遇する一般的な疾患であるが,リウマチ性弁膜症に代わって弁逸脱,腱索断裂などの非リウマチ性弁膜症の頻度が増している.なかでも高齢化に伴う非特異的弁肥厚が原因となる症例も多くみられるようになって来ている.本邦における死因の第2位を占める心不全の原因としても,弁膜症は古くて新しい研究課題である.最近注目された弁膜症に関連した二つの大きな話題を紹介しよう.
ひとつは,パーキンソン病などに広く使用されている麦角アルカロイド系ドーパミンアゴニストによる薬剤性弁膜症(主として弁逆流)の話題である.パーキンソン病に対して投与されたbromocriptine,pergolide,cabergolineによる薬剤性弁膜症の症例が報告されたのは2002年であった.弁置換手術時に摘出された弁は線維芽細胞の増殖によってびまん性に肥厚しており,麦角アルカロイド系ドーパミンアゴニストにはセロトニン受容体へのagonist作用があり,弁膜に発現している5HT2Bサブタイプのセロトニン受容体への刺激が細胞増殖,特に線維芽細胞の増殖を促進させるためと推測されている.その後も幾つかの臨床研究でこれらの薬剤投与例での弁膜症発症への相対危険度が有意に高値であることが示され,米国ではpergolideの販売は中止され,cabergolineの投与は少量のみに制限された.日本でも2004年に添付文書でpergolideによる弁膜症発症の可能性が公表され,さらに,2007年に弁膜症例に対して両薬剤を投与禁忌とする改訂が行われた.実地診療で,数多くの高齢者の弁膜症患者を診るなかで,心エコー検査を行ってリウマチ性でもなく,といって弁逸脱もなく「非特異的弁肥厚」という検査結果を見ることの多くなった昨今,「薬剤誘発性弁膜症」を念頭に置く必要を痛感している.
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