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本号の特集「インフルエンザ感染症の最新の話題」は,新型インフルエンザおよび鳥インフルエンザを含めたインフルエンザウイルス学,疫学,ウイルスと宿主の関係,治療などの最新の話題について執筆して頂いた.
人類は有史以来,絶えず感染症の脅威にさらされている.インフルエンザは,主に冬期に流行する呼吸器系ウイルス感染症の代表的な疾患である.ウイルス学的に確認された最初の流行は1918年のスペインかぜであるが,歴史学的には紀元前412年に突如として発生して瞬く間に広がり,数カ月のうちに消えていく咳と高熱の流行性疾患とヒポクラテスとリヴィが記録している.周期的に流行が現われてくるところから,16世紀のイタリアの占星家たちはこれを星や寒気の影響(influenza=influence)によるものと考えていた.わが国では,平安時代に「増鏡」に「しはぶき(咳)やみはやりて人多く失せたまふ…」と書かれており,江戸時代には,「お駒風」「谷風」などと名付けられた悪性のかぜ(インフルエンザ?)の流行がみられたという.数十年に一度大きく抗原性の異なるA型インフルエンザウイルスが出現し,大流行を引き起こす.最近では,鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザが流行し,世界的な流行の脅威に曝された記憶も新しい.インフルエンザは,ウイルス感染症のなかでワクチンによる予防と抗ウイルス薬による治療が有効な疾患である.2009年のH1N1流行時にみられた入院症例および死亡例の多くは抗インフルエンザ薬が投与されていなかった.ウイルス感染症対策の基本は,ウイルス学的性質の解析,流行の疫学的調査,ウイルスと宿主の関係の詳細な解析,有効なワクチンと抗ウイルス薬の開発と臨床応用などである.今後,発生する恐れのある新たな流行に備え,私たちもインフルエンザに対する知識を深めたい.
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