- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
私が属する北里大学病院救命救急センターには年間約500名の心肺蘇生患者が押し寄せる.驚いたことには,今日ではその6%,30人が独歩退院していく.15年前,私が赴任した当時,状況は大いに違った.独歩退院は例外的な患者であった.95%の患者は助からなかった.否,助けようがなかった.生存出来た人達もハッピーではなかった.植物状態であったり,あるいは家庭生活もままならない生活を強いられたりする人達もいた.この素晴らしい結果をもたらした活動はここ10年間で急速に進歩した.シカゴのオヘア空港やラスベガスのカジノに設置された自動体外式除細動器(AED)が市民によって使用され,高い救命率を示したとNew England Journal of Medicine誌 343:1206-1209,2000が報じた.これを契機に一般市民によるAED使用が広まり,2004年には日本でも認められた.さらに,日本循環器学会の積極的な活動も加わり,特殊な器具や医薬品を用いずに行う心肺蘇生法(Basic Life Support;BLS)の普及に勢いがでた.今回,これら活動の中心的役割を常に果たしてこられた東京都済生会中央病院心臓病臨床研究センター三田村秀雄先生にAEDを検証する特集を企画していただいた.AEDの設置状況,使用実績,活用法,心臓リハビリテーション,救命救急講習,AEDの機器特性など数多くの立場から検証が進められている.
もともと日本人は検証することが下手である.インサイダーで検証することも必要であれば,アウトサイダーに検証を委ねることも必要である.インサイダーは手心を加えがちである.またアウトサイダーは手厳しい.医療の中ではしばしば経験する.しかし,何であれ,新たな活動は常に検証される必要がある.検証を経て体系化し,さらなる高次の活動へと結びつける.そして体系化するにはエビデンスが不可欠であり,強い意匠と熱意を必要とする.今回のAED検証は,私が冒頭で述べたように,痛い経験に裏打ちされている.検証の結果を活かし,正の連鎖を重ね,長寿社会をより豊かなものにしてもらいたいものである.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.