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フランクフルトから120kmほど東に進むと小さな中世都市,ヴェルツブルグに着く.ドイツ鉄道の誇るインターシティで約1時間の道程である.駅を出て,ビショップを護り続けたマリエンべルグ砦を右に仰ぎつつレジデンツ方向に進むと,大きな通り越しに明るい色の小さなハウスが見えてくる.これがレントゲンハウスである.第1回ノーベル物理学受賞者 ヴィルヘルム・コンラッド・レントゲンが1895年にX線を初めて発見した場所として知られている.翌1896年にはアンリ・ベクレルがウラニウムを,次いで1898年にはマリ・キュリーとピエール・キュリーがラジウムを発見した.まさに放射線医学の黎明はこの4人に収斂している.しかしながら,これは光の部分である.影はすぐに現れた.まず,放射線同位元素を見出したピエール・キュリー,アンリ・ベクレル,そしてマリ・キュリーがそれぞれに放射線障害を病んでいる.ピエール・キュリーは若くして,ベクレルは55歳で他界し,マリ・キュリーは66歳でついに白血病で亡くなっている.この3人は新しい放射線同位元素の発見を先行させ,健康障害へのリスク管理を二の次にしたのであろう.皮肉にも貴重なエビデンスが遺る歴史的結果となった.肝に銘ずべき事実である.なおレントゲンはこのX線研究の後,1900年からミュンヘン大学に移り,その後20年は圧電効果などX線以外の研究に没頭したが,1923年78歳でがんに倒れている.
今回の特集テーマは「循環器診療における放射線防護」である.カテーテル診療はその診断・治療において衆目の一致する優れたアウトカムをあげてきた.焦点は度重なる放射線被ばくの問題である.用量依存的に患者サイド,術者サイドに放射線障害を発生する.如何に対応するかが問われている.特に,MDCTの普及とともに新たな課題も生まれている.今月はカテーテルチーム医療に携わるあらゆるヒトが必読すべき特集となっている.
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