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はじめに
急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)は,種々の原因により肺毛細血管の透過性が亢進し,好中球や血液中の蛋白成分など肺胞内流入によって引き起こされる重症呼吸不全である1).肺胞に滲出した好中球は,スーパーオキサイドなどの活性酸素やエラスターゼなどの蛋白分解酵素を放出し肺損傷を招来する.肺損傷が遷延化すると肺胞上皮の再生が阻害され,線維芽細胞が増殖し不可逆な肺線維化に陥る.今回のテーマである肺サーファクタントは,ARDSの発症過程,臨床症状の発現および治療・予後に至るまで深く関わっている.
肺サーファクタントは,肺胞II型上皮細胞(以下,II型細胞)により合成・分泌される.飽和リン脂質を主体とする脂質成分(90%)と肺サーファクタントに特異的なアポ蛋白を主体とする蛋白成分(10%)とからなる脂質蛋白複合体であり,肺胞内面を被覆し呼気終末における肺胞虚脱を防止する生理活性物質である.肺サーファクタント特異的蛋白として,SP-A,-B,-C,-Dの4種類が知られている.このなかで,SP-BとSP-Cは非常に疎水性の強い蛋白であり,肺サーファクタントの活性中心であるリン脂質と強く結合し,肺胞の気相・液相表面へ吸着促進させる点で肺サーファクタントの機能発現においては不可欠である.後述する人工肺サーファクタント製剤が良好な界面活性を有する条件として,リン脂質成分のほかにSP-BまたはSP-Cのいずれかが必要になる.一方,SP-AとSP-Dは親水性蛋白であり,肺サーファクタント代謝調節や肺胞自然免疫に関与する.現在利用されている人工肺サーファクタント製剤にはこの両蛋白は含まれていないが,より内因性肺サーファクタントに類似した製剤に近づけるには,この親水性蛋白の必要性も今後検討されるべきであろう.
肺サーファクタント欠乏によって引き起こされる代表的疾患として,新生児の呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome;RDS)が知られており,Fujiwaraらが,surfactant TAによる補充療法が本疾患の生命予後を著しく改善させたと報告2)したことが契機となり,ARDSに対しても人工肺サーファクタント製剤の補充療法の臨床効果が検討され始めた.
本稿では,ARDSの発症あるいは進展過程に関与する肺サーファクタントの量的・質的異常,およびそれらの異常によりもたらされる病態や合併症を踏まえ,人工肺サーファクタント製剤の補充療法の意義や効果について最近の文献報告を踏まえて解説する.
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