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肺保護換気戦略
急性呼吸不全への治療として人工呼吸が行われるが,不適切な人工呼吸は逆に急性肺損傷の原因となり,呼吸不全を惹起/悪化させるだけでなく,多臓器不全の原因となることが明らかにされた.これをventilator-associated lung injury(VALI)と呼び,動物研究の結果から高濃度酸素曝露に加えて肺胞の過伸展や虚脱再開通が繰り返し行われることが発生機序と考えられている(高濃度酸素吸入については本稿では割愛する).VALIには各種炎症性サイトカイン産生が関与しており,サイトカイン産生は肺胞過伸展の程度や虚脱肺の有無に依存する結果が得られている.VALIでは人工呼吸により肺局所に発生した肺障害が全身に播種され(de-compartmentalization),遠隔臓器の障害へと波及すると考えられている.そこでALI/ARDSに対する人工呼吸では,VALIから肺を護りながら陽圧換気を行う,肺保護換気戦略という概念が提唱された.
2000年に米国ARDS networkで行われたランダム化比較試験(RCT)では,肺の過伸展防止策として1回換気量を理想体重あたり6mlに制限した肺保護換気戦略が12ml/kgの対照群と比較され,ALI/ARDS患者の死亡率が39.8%から31%に改善されるだけでなく,人工呼吸期間やICU滞在期間の短縮,不全臓器数の減少,血中interleukin-6濃度の減少につながることが明らかにされた(ARMA study).以後の肺保護換気戦略はこの研究を基に計画されているが,ARMA study以前にも以後にも肺保護換気を検討したRCTで生存率改善に有意差が得られた研究はひとつもない.
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