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はじめに
急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)は敗血症や重症肺炎,多発外傷などの種々の病態を誘因として発症し,肺の急性炎症とそれに伴う肺毛細血管内皮の透過性亢進を特徴とする1).1994年に発表されたAmerican-European Consensus Conference on ARDSによる診断基準は,①急性の経過,②胸部X線写真上の両側びまん性浸潤陰影,③低酸素血症(PaO2/FIO2≦200Torr),④左心不全の否定の4項目から成る.また,低酸素血症の程度に基づき,より軽症(PaO2/FIO2≦300Torr)のものを急性肺損傷(acute lung injury;ALI)と定義している2).ARDSとALIとの間には,病理学的にも,また治療方針に関しても大きな違いがないため,ARDS/ALIとして一括して論じられることが多い.急性期(acute phase)のARDS/ALIでは肺水分量の増加,肺気量の減少,肺コンプライアンスの低下,気道抵抗の上昇,肺拡散能の低下,肺内シャントの増加などに伴って,初期には低二酸化炭素血症を伴う中等度の低酸素血症,進行すると高二酸化炭素血症を伴う重篤な低酸素血症が生じる1,3).一方,発症後数日以上経過した線維増殖期(fibroproliferative phase)または晩期のARDS/ALIでは,肺線維症へと進行することがある4).ARDS/ALIの診断基準は,前述のように主に病態に基づくもので,病因や病理学的観点は入っていない.またARDS/ALIに対しては,有効な薬物療法が確立されているとはいえず,その治療は呼吸管理をはじめとする全身管理が中心になる.以上のことから,的確な診断や呼吸管理を含む治療戦略を考えるうえで,機能異常の理解は極めて重要である.
本稿ではARDS/ALIにおいて,いかなる機能異常が引き起こされ,それがどのような症状・臨床所見につながるかについて概説する.
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