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ARDSに認められるサーファクタント異常
ARDSの病態は,肺血管透過性亢進に基づく好中球や血清成分の肺胞内流入によって引き起こされる重症呼吸不全としてとらえることができる1).その一つは血清由来阻害因子などによるサーファクタント機能不全であり,もう一つは好中球による肺傷害とその異常治癒機転としての肺線維化である(図1).サーファクタント機能不全の結果,肺胞は虚脱しガス交換が阻害され急性呼吸不全となる.一方,肺コンプライアンスは低下し,高い気道内圧の結果barotraumaなどの原因にもなる.これらの患者は,運良く急性期を脱したとしても,好中球やメカニカルな原因による肺傷害の程度が強ければ,肺線維化が起こり在宅酸素療法などが必要な慢性呼吸不全状態に陥る.
ARDSに認められるサーファクタント異常は,量的異常と質的(機能的)異常の両面からとらえることができる.未熟児のRDSに対する人工サーファクタント補充療法の有効性は現在ではその評価がほぼ確立しているが,ARDSにおける人工サーファクタント補充は未熟児の場合と意味が異なる.すなわち,未熟児の場合,肺が未成熟でサーファクタントが産生されないために起こるサーファクタントの量的不足であり,人工サーファクタント補充は肺が成熟し内因性サーファクタントが合成・分泌されるまでの一定期間を乗り切るための補助としての意味合いが強い.ARDSにおいて肺胞II型細胞に機能異常が起こりサーファクタント合成・分泌が低下し量的不足が起こるとする報告はなく,むしろサーファクタントのリン脂質総量は正常かあるいは多少増加しているとされる.肺を洗浄して得られるサーファクタントには,活性型のlarge aggregateと活性を失ったsmall aggregateの2種類があるが,ARDSではlarge aggregateからsmall aggregateへの変換が亢進しており,リン脂質量としては同じでも非活性型が多く存在していることが示唆される.さらに,肺内に存在するフィブリノーゲンなど血清蛋白成分は,サーファクタント機能阻害物質となり,この点もリン脂質量とサーファクタント機能のアンバランスの原因となる.
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