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はじめに
ARDSに対するステロイドの有効性は,長きにわたり検討されてきたが,未だに結論は出ていない.メチルプレドニゾロン(30mg/kg)のいわゆるパルス療法は古くから行われてきた.しかし1980年代,BernardやBoneにより高用量メチルプレドニゾロン(30mg/kg,6時間おきに4回投与)は有効性が否定された1,2).そればかりではなく,腎機能の悪化を生じやすくなる可能性すら指摘された.そこで,1990年代には,改善が認められず時間が経ってしまった,いわゆるlate ARDSに対し,線維化を防ぐことにより予後を改善させる可能性を期待して,低用量メチルプレドニゾロン連続(2mg/kg/day)の有効性がMeduriらにより報告された(ICU生存率100% vs. 37%,p=0.002,院内生存率87% vs. 37%,p=0.03)3).この報告はこれまでのステロイドの使い方を変えるもので,非常にインパクトがあった.しかし2000年代に入り,この方法が再検証された(ARDS発症後7~28日目の症例,メチルプレドニゾロン2mg/kg/dayを14日間,続けて1mg/kg/dayを7日間).結果はMeduriらの報告と全く逆であり,時間が経った症例ほどステロイド使用により死亡率が増加するという結論であった(表1)4).
これらの結果から,いつ投与すべきか,という点では少なくとも遅いよりは早く投与すべきであると考えられる.そもそも動物実験では,ステロイドはありとあらゆる原因によるARDSに対し有効性が認められている.この結果はどこから来ているのか? それはステロイドの使い方による.動物実験では障害モデルを作製するのと同時もしくは予防的にステロイドが使用されている.つまり,超早期にステロイド投与が行われることにより,その効果が発揮されているのである.しかし,実際の臨床現場ではこのようなことは行い得ない.すべての患者はARDSが発症してから治療が開始されているのである.唯一,臨床現場でこれに近い形で,ステロイドの効果が期待できるのは予定手術時の術前投与である.代表的な例として食道癌手術が挙げられる.食道癌手術は術後呼吸不全を引き起こすことが多く,ARDSの発症率は14.5%にもなるとする報告もある5).われわれは,以前,食道癌手術(開胸・開腹・3領域リンパ節郭清)に対しメチルプレドニゾロンの予防投与が術後の酸素化能の維持(図1)と合併症の減少,ICU滞在日数の減少(表2)をもたらしたと報告した6).まさに,このステロイドの使用方法は動物実験の効果的な使用方法と同じものであり,理に適った使い方であると思われる.
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