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はじめに
全身性に過剰な生体反応が生じた状態はsystemic inflammatory response syndrome(SIRS)と包括される1).SIRSの状態においてはtumor necrosis factor α(TNF-α),interleukin6(IL-6),interleukin8(IL-8)などの炎症性サイトカインがネットワークを形成し,好中球の活性化をもたらし臓器障害を発症させる2~6).活性化された好中球から遊離されるpolymorphonuclear leukocyte elastase(PMN-エラスターゼ)はエラスチン,コラーゲン,フィブロネクチン,プロテオグリカンなどの肺結合組織蛋白質の分解作用,血管透過性亢進作用,白血球遊走因子(C5a,IL-8)の産生作用を有しており,これらの作用により肺障害が誘発されること,acute lung injury(ALI)/acute respiratory distress syndrome(ARDS)患者の気管支肺胞洗浄液中のPMN-エラスターゼが高値を示すこと7),PMN-エラスターゼの上昇と肺機能低下の間には相関関係があることなどが報告されている8).また,PMN-Eのマウス気管内投与により肺障害を誘導することも報告されている7).
生体が備えている防御機構のうち,侵襲のごく早期に働くのが好中球である.好中球の持つ生体防御因子のうち,異物,細菌の破壊や殺菌に直接働いているのは中性プロテアーゼと活性酸素である.中性プロテアーゼのうち,特にPMN-エラスターゼは好中球から放出された際に活性型であり,しかも基質特異性が低く,エラスチンをはじめとして生体の重要な蛋白のほとんど全てを分解しうる強力なプロテアーゼである9,10).したがって,炎症の局所で作用している時には生体防御にとって極めて有意義である.しかし,その作用は同時に,その局所にある組織をも破壊する可能性を持つ.そこで,生体内にはPMN-エラスターゼの内因性インヒビターが存在する.このため,実際には好中球から放出されたPMN-エラスターゼは,活性型のままで存在することはできない.内因性インヒビターとしてはα1-プロテアーゼインヒビター(α1-PI),α2-マクログロブリンなどが知られている.特にα1-PIは血中濃度が最も高く,エラスターゼ阻害速度も迅速であり,PMN-エラスターゼの最も重要な生体内インヒビターと考えられており,活性型のエラスターゼの90%はα1-PIによって活性を阻害される11).そのため,全身への影響は全く考慮しなくてよいとされてきた.
近年,好中球が活性化されてPMN-エラスターゼを放出する際には,同時にエラスターゼの内因性インヒビターが不活性化され,PMN-エラスターゼが作用できるようになることが明らかにされた12).すなわち,炎症局所において,α1-PIはその活性中心であるメチオニン残基が好中球由来の活性酸素種により酸化されPMN-エラスターゼ阻害活性が失活し,この領域ではPMN-エラスターゼが十分に作用することが可能となる.さらに,高分子であるα1-PIは,好中球が内皮細胞と接着した部分では介在できないことが考えられている13).これらのことが,生体内に多量のα1-PIが存在するにもかかわらず,PMN-エラスターゼが組織障害を引き起こすメカニズムとして考えられている.
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