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ALI/ARDSをめぐる最近1年間の話題
[1]はじめに
急性肺損傷(acute lung injury;ALI)およびその重症型である急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)は,敗血症,重症肺炎,外傷などの種々の基礎病態に引き続いて起こり,肺微小血管の広範な傷害による透過性亢進型の肺水腫を来す病態である1).ALI/ARDSでは,種々の原因により肺内に過剰に集積した好中球から放出される活性酸素や蛋白分解酵素などにより血管内皮や肺胞上皮が傷害され,透過性が亢進し,肺水腫が惹起されるものと考えられている2).ALI/ARDSによる死亡率は以前より低下しているものの,治療法は未だ確立されておらず,病態やそれを踏まえた特異的治療法に関する研究が続けられている3,4).
ALI/ARDSに関する最近の研究報告をみると,マイクロアレイ法による網羅的遺伝子解析やプロテオーム解析など,疾患関連遺伝子・蛋白に関する研究が目につく.これは疾患関連分子の研究が発症危険因子やバイオマーカー,新たな治療ターゲットなど,様々な方面に発展しうるためと考えられる.その一方で,治療については従来試みられてきた抗炎症療法よりもALI/ARDSの最終的な現象である肺水腫を抑制する試みにシフトしているように感じる.薬物療法の限界を指摘する意見がある一方で,薬物療法の新たなターゲットを探索する試みは続けられており,さらに遺伝子治療や細胞療法などの新規治療法についても基礎的なデータの集積が行われている.副腎皮質ステロイドや一酸化窒素(nitric oxide;NO)吸入療法については,その有効性に関する報告間での相違が問題になっていたが,最近メタ解析の結果が報告され,一応の決着をみた.
本稿では,疾患関連分子,薬物療法の現状と新しいターゲット,新規治療法の可能性などに関して,最近1年間の報告を中心に解説するが,今回紹介した以外にも多くの研究成果が積み重ねられていることは言うまでもない.
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