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はじめに
タバコの煙の粒子層や気層には,発癌物質を含む4,500種類以上の化学物質や有害物質が含まれている.特に,その粒子層にはニコチン,ピレン,ベンゾピレンなどが,気層にはアクロレイン,アセトアルデヒド,シアン化水素,窒素酸化物などが含まれ,これら有害物質吸入による直接的または間接的影響が慢性閉塞性肺疾患(COPD)1)などの気道疾患や発癌,各種動脈疾患の病態に密接に関係していることが多数報告されている.また,喫煙者が自分の意思で吸い込む主流煙(能動喫煙)よりも,タバコの点火部分から立ち上がる副流煙のほうが高温で,ニコチン,ベンツピレン,一酸化炭素などの有害物質含有量が数倍から十数倍高いことから,この副流煙を自分の意思とは無関係に吸入させられる「受動喫煙」が個々の健康障害のみならず社会全体の問題となっている.
気管支喘息(喘息)は,慢性の気道炎症を基礎として生ずる種々の程度の気道狭窄,気道過敏性亢進による繰り返す咳,喘鳴,呼吸困難を特徴とする慢性気道疾患である2).この喘息の発症・増悪には,遺伝的素因を含めた個体因子と感染症やアレルゲン・刺激物質への曝露などの環境因子が関与していると考えられており,特に近年の喘息を含めたアレルギー性疾患有病率の増加の原因として,環境因子の影響が大きいとされている.タバコの煙の吸入が主な原因であるCOPDの合併が喘息の重症化・難治化に関係していることは以前から良く知られているが,近年,タバコの煙が直接的に,または間接的に環境因子の一つとして,個体因子と絡み合って喘息の発症ならびに増悪,難治化・治療抵抗性に関与していることも明らかになってきている(図1)3).
本稿では,「受動喫煙」を含めた喫煙の喘息発症,増悪,治療ならびに医療経済に及ぼす影響についてこれまでのエビデンスに基づき概説する.
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