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今から30年程前のことであるが,私の大学院生活は当時の呼吸器病学研究を先導していた肺生理学の動物実験のお手伝いから始まった.そこでの主役は実験動物としての雑犬で,脇役としての私の仕事は動物実験台の清掃や実験器機の調整であった.その後,渡米してからはモルモットを用いた急性肺損傷の動物実験に明け暮れた.帰宅した私に,“また動物さんを殺したの?”と息子に尋ねられた時,正直答えに窮したものである.
医学研究の歴史は,動物実験モデルとともに刻まれてきたと言っても過言ではないと思われる.そこで今回の特集では,「肺疾患動物実験モデルの意義と展開」というテーマを取り上げ6人の先生方に執筆をお願いした.動物実験モデルの利点として,条件設定の容易さや統計解析のしやすさなどが挙げられるものの,はたして肺疾患動物実験モデルがヒトの肺疾患にどれだけ近似しているかに関しての議論は絶えない.多くの研究者が“所詮”動物モデルというような感覚を持っているのも事実である.しかし,医学実験研究の場合,in vitroの成績に加えて,生体での反応をみる目的で動物実験モデルが併用されているのが現状であり,またそれは妥当なことと思われる.肺疾患動物実験モデルの指標(パラメーター)としては,従来より肺生理機能(呼吸機能,血液ガス,血圧,血管透過性など)や生化学的検査,病理組織,生存率などが用いられてきた.十数年程前まではこれらの指標の有意な変化の観察(いわゆるobservation)のみで良しとされ,その実験結果が一流の雑誌にacceptされていた.しかし,近年では根底にある分子生物学的・遺伝子学的変化まで追求しないことには,なかなか良い雑誌にacceptされないのが現状である.そこで,用いられ始めたのが遺伝子改変動物実験モデルである.この遺伝子改変動物実験モデルにも種々の問題点があるが,その点に関しても本特集では取り上げた.
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