- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
ただただ,これだけの本を一人で書き上げた著者に脱帽の思いである.私もこれまで単著を上梓してきた自負はあるが,あくまでも救急領域の一分野に限定された内容である.ところが,本著のタイトルには「救急」と冠されてはいるが,内容は救急領域を遥かに超えた幅広い分野に及んでいる.しかも,本著からは,著者の豊富な臨床経験ばかりでなく,広く深く正確な知識をもたらした著者の猛烈な知的欲求がにじみ出ている.「いったい何者だ?」という思いで著者の略歴を見て,合点した.物理学を学んだ後に,医学を志し,さらに,臨床医として,インターナショナルに切磋琢磨され,著者が「戦場」と譬えた「救急医療現場」に飛び込んだ経歴の持ち主である.著者にお会いしたことはないが,とにかく並外れた「熱い心」と「エネルギー」の持ち主であることは容易に想像がつく.
「臨床検査」に関する著書は数多い.しかしながら,肩書きはあるが,現場からは一線を置いた著者による,必要な情報を網羅しているだけの,似たり寄ったりの凡書ばかりである.視線が現場にないのである.ところが本著は,「この本を日夜戦場で戦う戦士たちに捧げる」と冒頭にあったように,自らが救急医療現場という過酷な「戦場」に身を置きながら,現場の視線で,同志のために書かれている点になによりも惹かれる.おそらく,凡書など一切参考にしていないのではないか.いたるところに同志が限られた時間のなかで,理解・活用できるように工夫されたオリジナリティーが感じられる.特に,豊富なフローチャート,「STEP」,「POINT」などを用いて,読者がいますぐ現場で必要な情報に理論的,段階的にフォーカスできる工夫は圧巻である.救急医療現場で必要な「初期検査」は,素早く適切な診断,治療に繋がる一助でなくてはならない.しかしながら,あくまでも「一助」であり,大切なことは検査データと患者を相互に「見て(診て)」総合的に判断することである.「鉄則」や感度・特異度や検査の限界についての記載などによって,検査データのみを「見る」だけで判断する短絡思考に釘を刺してくれるところは非常にありがたい.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.