Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
遺伝子改変マウスには大別してトランスジェニックマウスと遺伝子ターゲッティングマウスがある.トランスジェニックマウスはクローニングされた遺伝子をマウスのゲノムに組み込んで安定に過剰発現させたマウスである.これに対し,遺伝子ターゲッティングマウスには特定の遺伝子を欠損させたいわゆる(コンベンショナル)ノックアウトマウスや,マウス自身の遺伝子をヒト型に置き換えたり,または微少な変異を遺伝子に導入したノックインマウスなどがある.
トランスジェニックマウスを作製する場合,外来の遺伝子(DNA)をマウス受精卵の核へ注入することから,染色体のどこにDNAを組み込むかを人為的にコントロールすることはできない.組み込まれた外来遺伝子の発現は周辺の染色体領域から影響(発現レベル,発現細胞・組織,発現時期など)を受けることに加え,外来遺伝子が染色体上の遺伝子を破壊した形で組み込まれることもある.故に,外来遺伝子の過剰発現がマウスに及ぼす影響を捉えるトランスジェニックマウスの表現型解析には,独立した複数のマウスラインで表現形の再現性を確認することが望ましいとされる.したがって,トランスジェニックマウスの維持・繁殖には以下に述べる遺伝子ターゲッティングマウスと比較して労力がかかることになる.なお,トランスジェニック動物はマウス以外にも家畜や魚,家禽が報告されている.
遺伝子ターゲッティングマウスの作製は,外来遺伝子が内在遺伝子と相同組換えを起こすことに基づいている.相同組換えを起こす染色体上の位置が決まっていることから,樹立したマウスライン間で遺伝学的な差異はほとんどないと考えられており,解析は主に単一のマウスラインで行われることが一般的である.1990年代にマウス個体へ発生が可能なES細胞を利用した作製技術が実用化されて以来,注目する遺伝子の機能が喪失したときに生体に現れる異常を解析するツールとしてノックアウトマウスは広く普及した.こうしてノックアウトマウスを中心として現在では頻繁に用いられるようになった遺伝子改変マウスであるが,いくつかの問題点が存在することが明らかとなっている.本稿では遺伝子改変マウス使用に伴う科学的な問題点に加え経済的問題点を挙げ,可能であればそれらへの対処法についても言及してみたい.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.