巻頭言
ミジンコから毛生え薬まで
桑平 一郎
1
1東海大学医学部付属東京病院呼吸器内科学
pp.877
発行日 2008年9月15日
Published Date 2008/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101108
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先生のご専門はと尋ねられると,呼吸器内科学,呼吸生理学で,低酸素への順応・適応など異常環境生理学や比較生理学にも興味を持っていますと答えることが多い.卒後28年が経過し,時々呼吸についてそれなりに知識が身についたかのような錯覚に陥ることがある.最近,身の回りにある自然現象でも,全く自分が不勉強で何も気付かず過ごしてきたことに驚きを禁じえないことがあった.巻頭言であることにお許しを頂き,不真面目なタイトルと思わないで頂きたい.
低酸素誘導性因子(Hypoxia-inducible Factor1;HIF-1)は低酸素状態で誘導される遺伝子応答のマスター因子であり,血管新生や細胞増殖,各種解糖系酵素をはじめとするエネルギー代謝などに深く関与する.生体が低酸素環境に順応・適応する根幹を構築する重要な蛋白である.1988年にGoldbergらが肝細胞癌のCell Line(Hep3B)の培養中,低酸素状態でエリスロポイエチンのmRNAを著明に増大させる因子を見出し,低酸素応答に極めて重要な働きを担う蛋白があることを発見したことに始まる.1995年にはWang,SemenzaらによりDNAの単離がなされ,現在までにヒト遺伝子発現の相当な部分を転写レベルで調節することが明らかとなった.HIF-1はヒトから線虫に至るほぼすべての細胞に発現し,生物にとって必須である.一方,HIF-1は腫瘍の増殖を支える血管新生を促進するマスター因子でもあり,HIF-1を阻害する新たな抗癌剤や放射線治療の組み合わせが盛んに研究されている.今では,HIF-1を研究しないと時代の先端を歩んでいない雰囲気すら感じられる.
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