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はじめに
肺気腫をはじめとする慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)はGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)ガイドラインで示されたように,世界的に有病率,死亡率,社会的経済負担が増加傾向にある疾患である.本邦においてもNICE studyで40歳以上の人口の8%以上がCOPDの範疇に入ることが明らかになった.以上のことより,COPDの病理発生のメカニズムを明らかにし,それに対処する治療法の開発が急務である.そのためにはヒトの肺気腫の病態をよく反映するモデル動物を作製し,それらを用いて病気への理解を深めることは不可欠であると考えられる.
肺気腫モデルは古くはエラスターゼ,パパインなどのエラスチン分解酵素を経気管的に投与することで作製されてきた.このモデルが現在のエラスターゼ-アンチエラスターゼ不均衡説の根拠にもなっている.また,遺伝子異常により肺気腫様変化を自然発症するマウスとして,Blotchy mouseやtight skin mouse,beige mouse,palid mouseなどが知られている.また,動物に喫煙させることで肺気腫を発症させるモデルも作製されるようになった.しかし,これらのモデルを使っての大きな進展は残念ながら認められなかった.
近年,遺伝子工学技術の進歩により,遺伝子改変マウスを用いた研究がさかんに行われるようになってきた.遺伝子改変マウスの手法としては,目的の遺伝子そのものを欠失させてその表現型を検討するノックアウトマウス(loss of function)と,対象となる遺伝子をマウスに導入し,その遺伝子を過剰に発現させるトランスジェニックマウス(gain of function)の手法が多く用いられている.最近このような遺伝子改変マウスの手技を応用しての肺気腫モデルが相次いで報告され,いままでの通説とは異なった新たな概念が提唱されてきている.
本稿では,われわれが報告したSP-D欠損マウスにおける肺気腫を含め,いくつかの遺伝子改変による実験肺気腫モデルより得られた新たな知見について概説する.
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