Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
アルデヒドと聞くとアルコール代謝を連想される方が多い.お酒を摂取すると,肝臓でエタノール→アセトアルデヒド→酢酸と代謝されていく(図1).お酒を飲むと気分が良くなるのはエタノールの作用,反対に顔が紅潮し動悸がして気分が悪くなるのはアセトアルデヒドの作用である.お酒がよく飲めるヒトと飲めないヒトがいるが,これはアセトアルデヒドの代謝能力の違いによる.アセトアルデヒドの代謝は主としてALDH2 というアセトアルデヒド脱水素酵素が担っている.ALDH2をコードしている遺伝子には遺伝子多型が存在する.活性型のALDH2*1に対して点変異(E487K)が入っているALDH2*2は不活性型で,その遺伝子産物は活性型のALDH2*1に対して“優勢抑制型変異体”として働く.ALDH2という酵素は4量体で働くが,4つのうちひとつでもALDH2*2由来の蛋白が入ると酵素活性はなくなる.したがって,ALDH2*1/ALDH2*2のヘテロのヒトはALDH2*1/ ALDH2*1のホモのヒトに比べるとALDH2の酵素活性としては1/2 ではなくて1/16まで低下しており,アセトアルデヒドの血液中濃度がすぐに高くなってしまうためにお酒が弱い(図2).また,ALDH2*2/ALDH2*2のホモのヒトはまったくお酒が飲めない.成人してお酒を飲んでみたら一口だけで顔面が紅潮し心臓がどきどきして全く受け付けなかったというヒトは,ALDH2*2/ALDH2*2のホモである.日本人の4割のヒトがALDH2*1/ALDH2*2のヘテロで,1割のヒトがALDH2*2/ALDH2*2のホモである.つまり,10人に1人は,お酒が全く飲めないヒトということになる.ALDH2の遺伝子多型は,遺伝子を調べなくても経験から自分で自覚できる.また,前腕にアルコールを浸したバンドエードを貼るという学生時代にやったあの簡単なパッチテストも実はALDH2活性をみている検査である.
アルデヒドは,お酒を飲まなくても体の中で自然に生じている.食品中に含有される脂質の酸化劣化(酸化的分解過程)は,においや嘔吐,ふるえ,下痢などの中毒症状の原因ともなるが,これは活性酸素(ラジカル:注1)によって脂質の過酸化反応が進行した結果生じたアルデヒドなどの二次酸化生成物によるものである.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.