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はじめに
Acute respiratory distress syndrome(ARDS)は,1)急速進行性の呼吸不全,2)PaO2/FIO2が200mmHg以下の低酸素血症,3)X線写真で両側の浸潤影,4)心原性肺水腫の否定,の4つの基準を満たすことにより診断される.その主たる病態は,血管内皮と肺胞上皮が障害され,肺胞内へ好中球を主体とする細胞浸潤が生じ,肺胞腔へ多量の水分と蛋白質が滲出する肺水腫である.肺炎や誤嚥などの直接的な原因だけでなく敗血症や多発外傷などの間接的な原因でもこの急性肺損傷が生じるが,その一連の分子メカニズムはいまだに十分に解明されていない.
ARDSについて,臨床的に大きな二つの問題がある.第一に発症の予測が困難であること,第二にいまだに死亡率が約50%と予後不良で,新たな治療法の確立が望まれることである.集中治療が必要な患者で,一般に重症度が高いほどARDSを併発しやすい傾向があるが,同じような重症度でもARDSを発症する患者としない患者がいるのが事実である.その違いを解明できれば発症の予防に役立つ可能性があり,また発症を予測するバイオマーカーとして応用できるかもしれない.また,ARDSの治療についてはpositive end-expiratory pressure(PEEP)や低容量換気などの様々な呼吸管理のストラテジーが報告されている一方で,ステロイドをはじめとする薬物療法では十分なエビデンスは確立されていないのが現状である.これらの問題を解決するためにARDSの肺胞内の環境を解析することは有効なアプローチであると考えられる.これまで炎症性サイトカインやサーファクタント蛋白の変化など個々の蛋白質に関する報告は多数なされているが,近年,その技術が著しく進歩したプロテオミクスの技術を用いた包括的な蛋白質解析が,新たな病態解明への手がかりとなるのではないかと期待されている.
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