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癌のプロテオミクス解析の現状
癌は遺伝子異常の蓄積でつくられる疾患であり,遺伝子異常の蓄積とともに形態学的に異型度が増し,病理組織学的には正常上皮細胞が前癌状態の細胞を経て癌細胞となる.細胞機能の側面から言えば,前癌病巣でまず細胞増殖能がさらに亢進し,遺伝子異常の蓄積により漸次浸潤能・転移能を獲得していくと考えられている.この多段階発癌の考え方が現在の癌細胞発生の考え方の主流であり,癌研究といえば癌細胞の遺伝子研究であるといっても過言でない.しかし,細胞の機能について考える時,細胞内における機能発現の場は蛋白質のレベルで行われる出来事であり,蛋白質発現の差や蛋白質分子間の相互作用を直接評価する必要性が改めて認識されるようになった.もともと遺伝子と比較して構造が複雑であり,解析における取り扱いも煩雑である蛋白質分子を扱うことは癌研究においては避けてこられたという状況があったように思われる.RNAのレベルでみられる選択的プライシングという概念は遺伝子と蛋白質分子が必ずしも1対1対応しないこと,蛋白質の翻訳後修飾(post-transcriptional modification)が疾患の病態の本質に深く関わっていることがあることが示されると,ゲノムの最終産物であり,細胞機能の発揮される現場ともいうべき蛋白質分子の解析が避けて通れないと認識されるに至った.ヒトゲノム解析の結果,約35,000の遺伝子が推測されており,蛋白質分子は一桁上の10万のオーダーの種類の存在が推測される.複雑な立体構造を有する蛋白質の解析は容易ではないと考えられるが,疾患病態解明には蛋白質レベルでの解析は避けて通れなくなった.したがって,高速でしかも簡便な自動化された蛋白質の解析技術が求められる.
蛋白質の包括的解析プロテオミクスの概念は1975年に蛋白質の高解像度2次元電気泳動法の技術が確立されたことに始まると考えられるが1),癌の臨床検体(癌組織や癌患者血漿などの体液)を用いた解析にはなかなか応用できなかった.われわれは,1980年代末より肺癌の切除材料を用いた2次元電気泳動法による肺癌細胞由来の蛋白質解析を行ってきた.この解析により肺腺癌に非常に特異的の高い蛋白質TA02(napsin A)を見出すなどの成果を得た2,3).
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