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一昨年ノーベル賞を受賞した田中耕一さんが,新聞の対談で独創的な研究をするための条件は3つあると語っておられる.第1に,異なった領域の者が数人ペアを組んで研究すること.brain stormによって1人では思いもよらないアイデアが出ることがある.第2に,その領域においてあまりたくさんの知識を持たないこと.すべてがやり尽くされてしまった感じがして独創性の入り込む余地がなくなってしまうから.しかし,そうは言っても勉強を決して否定するものではない.新しい領域を開発するには,その領域に関する豊かな知識と卓越した技量が必要なことは言うまでもない.第3に,失敗の繰り返しが認められる環境であること.新しい試みが実を結ぶのはせいぜい10~20%である.大部分は失敗に終わるのであるから,決してくじけず,粘り強い姿勢が必要である.
呼吸器病学の研究に関して,これらの点に対する私の考え方,対処の仕方を述べてみたい.第1点に関連して,呼吸器病学の分野は肺癌・呼吸器感染症・気管支喘息・COPD・間質性肺疾患・肺循環障害・睡眠呼吸障害・呼吸不全など多岐に及ぶ.最近,研究者の領域が高度に専門化されすぎる傾向になっていることが危惧される.一方,呼吸器病学において各分野の連関性が話題になっている.例えば,COPDにおけるアデノウィルス感染・サルコイドーシスにおけるP.acnesなど感染症が様々な呼吸器疾患の病因となっている可能性が指摘されている.また,従来は間質性肺疾患は炎症性疾患であると言われてきたが,最近では線維芽細胞の異常増殖がその根幹であるとして肺癌との共通性が指摘されている.COPDと気管支喘息の病態の異同が近年問題となっている.以前は世界的にも,この2疾患の研究者群がお互いに全く違うコミュニティを形成していた感があったが,最近では日本でも両方の専門家が一緒になって「閉塞性肺疾患」として議論するようになった.その結果,新しい風が吹き始めてきたのではないかと感じる.研究者がある程度疾患別に特化することはやむを得ないにしても,異分野の研究者が議論を闘わせる場を持つことが必要であり,私たちの教室でも定期的に全研究者によるbrain stormを行い,出来るだけ多くのアイデアを募るようにしている.
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