巻頭言
独創的研究とは何か
阿南 功一
1
1東京医科歯科大学生化学教室
pp.203
発行日 1961年10月15日
Published Date 1961/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906200
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こういう題目で書くのは自分の研究実績を顧みてもおこがましいのではあるけれども,敢えて私が日頃感じて来たことを述べさせて戴きます。
さて最近の研究発表誌と研究論文の多いこと,またその増加ぶりは大変なものです。今日の学問研究の発展進歩が無数の業績の基礎の上に積み上げられてきたことは事実であります。しかし飜つて自分の立場,換言すれば自分の利用し得る研究費,実験設備,研究協力者,また自分の心身のエネルギーを考えて見る時,少なくとも私としては特に必要のない限り「調査的実験」は避けたいものです。今日の莫大な研究論文中に多数の調査的あるいは追試的実験と思われるものが含まれています。私のオレゴン医大滞在中に聞いた話ですが,米国の某大学のさる教授は細菌中の糖成分の二三を測定しては細菌別に一論文として出したので無数の論文ができ上つたとか。この話には誇張もありましようし,勿論極端な例ですが,現状の一面を衡いている点で面白く聞きました。一昔か二昔前までは,ある蛋白性物質を抽出してそのアミノ酸組成を調べることは一応立派な研究テーマでしたが,自動アミノ酸分析器の売出され始めた今日では,もはや調査のニューアンスが濃くなつてきました。
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