胃と腸ノート
重複胃癌(3)
三宅 政房
1,2
,
安井 昭
1,2
1順天堂大学消化器外科
2越谷市立病院消化器外科
pp.1336
発行日 1975年10月25日
Published Date 1975/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403112222
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奇異な例 図1は切除胃標本の写真で,図2はその組織診によるプロットである.術前,幽門前庭部のBorrmann Ⅱ型癌と診断し,胃切除を行ない,組織学的検索によってⅡa+Ⅱc型早期癌(sm)と,その口側(oral)および肛門側(ana1)にそれぞれ小さなⅡb型早期癌を認めた.そのさらにoralの胃切除線附近,すなわち胃体部後壁小彎側寄りに3.7×2.0cmの範囲に粘膜下層(sm)~漿膜下層(ss)にかけて管状腺癌(tubular adenocarcinoma)の浸潤および脈管侵襲(v(+))も認められたが,奇妙なことに粘膜層(m)には癌は認められなかった.
この例は断端陽性(ow(+))であるので,術後3カ月および6カ月の2回にわたり再入院させ,精査したが,残胃内には癌性病変,およびその他の所見は認められなかった.したがってペッツで把持された部分の約1cm幅で切除した部に癌巣が含まれていたのか,癌巣を残胃断端に縫い込んでしまったものか,あるいは,いわゆる壁内転移のため(幽門部の病巣より口側に離れすぎている嫌いはあるが)のものか,今のところ確診されていない.しかし精査の目的で肝動脈造影を行なったところ,肝転移を指摘されており,この点からみれば,壁内転移の可能性を強く疑える例である.したがって厳密な意味では重複癌の範疇に入らない症例かも知れない.とにかく厳重に警戒観察中である.
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