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消化管の憩室は,食道から大腸に到る各所に発生しうる.最近の日本内視鏡学会で,十二指腸憩室の諸問題がシンポジウムとして取上げられたり,京都の第1回アジア太平洋内視鏡学会では,消化管の憩室がテーマとして取上げられ,注目されつつある.食道,胃,十二指腸における憩室の多くは先天性のもので,症状発現は稀である.一方大腸憩室は,症状の発現を頻繁に認め,時に傍憩室炎,出血,疼痛など重大な合併症をおこすことがあり,臨床上きわめて重要である.
一般に大腸の憩室は,発生において2つの異なるものをみる.1つは,右側結腸あるいは盲腸に単発または多発するもの,他は左側結腸殊にS状結腸に多発するものである.欧米では,後者つまり左側結腸に多発する傾向が強く,全症例の約90%と報告されている.一方,日本人では反対に右側,つまり盲腸や上行結腸に多いといわれる.事実私どもの愛知県がんセンターの症例では,放射線科三原によれば,約60%が右側結腸及び盲腸におこっていて,多くは単発だが,上行結腸には多発しているものもあるという.かかる著明な相違は,欧米と日本における大腸憩室の病理発生に関する基本的な違いを示唆するものと思われる.いま少し詳しく述べると,大腸憩室の頻度は,欧米では,全大腸透視の5~25%にあるといわれるが,仮にBockusに記載された6.8%をとると,このうち右側結腸の憩室は約10分の1で,0.7%位になる.当院三原によれば,4,736の大腸X線検査中,76例(1.6%)に大腸憩室をみ,うち60%が右側にあった.つまり約1%に相当する.先の0.7%に比べて統計的に意味のある差とは思われない.要するに欧米と日本における大腸憩室の違いは,左側結腸に発生するものの相違で,後に述べるような後天性の因子が関与しているのではないか.一方先天性因子が関連するものが多いと思われる右側の憩室の頻度は,欧米と日本の間で,有意の差をみない.
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