iatrosの壺
患者にとっての最善の治療は?
丹下 正一
1
1北関東循環器病院循環器内科
pp.47
発行日 1996年11月30日
Published Date 1996/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402905413
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より良い治療技術が,日進月歩で開発されている.しかし,疾患に対して最善の治療と思ったことが,その患者にとって必ずしも最善ではないことを痛感させられた事件があった.
57歳の頑強な男性が急性心筋梗塞でかつぎ込まれた.冠動脈造影で左前下行枝の閉塞を認め,primary PTCAにより再疎通に成功した.しかし病変部位に血栓を認めたため,治療上IABPが最善と考え,治療方針と2〜3日の安静が必要なことを説明し,患者の了解を得てIABPを挿入し,CCUに帰室させた.CCU入室後,安静の必要性を再度説明し,IABP挿入側の下肢の抑制を行った.しかし,次第に抑制に耐えられず興奮しはじめ,夜勤看護婦と当直医を殴りつけて,制止をきかずIABPの接続をはずしCCUから脱走し,100 m以上歩き病院外に出てしまった.主治医が到着したときには,患者はIABPの断端を股部から出し冷汗を流しながら,喫煙室の中で看護士の差し出すタバコをふかし落ちつきつつあった.説得されCCUのベットに戻った後は,殴ったスタッフに素直に謝っていた.私は,この患者が絶対安静と心身の抑制に耐えられるのは6時間が限度と判断した.
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