私の経験例
末期まで異常所見の得られなかった膵癌の症例
森川 景子
1
1大阪赤十字病院内科
pp.1896
発行日 1977年12月5日
Published Date 1977/12/5
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402207546
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患者は64歳女性.入院3カ月前より口渇と倦怠感を訴え,昭和49年4月入院した.GTTの結果は重症糖尿病がありInsulin治療を必要とした.現病歴聴取の際,腰痛と軟便を訴えたが,腰痛は2年前に背部打撲傷をうけて以来のものという.念のため整形外科を受診させたところ,腰椎間板症と診断されたため,とくに重視しなかった.また軟便も数年来あり,とくに牛乳を飲むと起こるとのことであった.既応歴には23年前に急性膵炎にて1週間入院したという,現症では腹部腫瘤も触知せず,肝脾リンパ節腫大もなかった.検査所見も肝機能検査をはじめとして胃腸透視,胆のう造影,肝シンチなどほぼ全部を網羅して検査したが異常なく,ただ便潜血反応のみが持続的に陽性であった.これら諸検査の結果,ほぼ1.5カ月を経過し,とくに著変がなかったが,その頃腹部に腫瘤を触知した.そこで超音波検査をしたが腹部諸臓器に悪性所見は見出せなかった.AFPも正常で,低緊張性胃腸透視の結果でもC-loopの拡大も見られなかった.そこで肝シンチの再検をしたところ,今回は多数のSOLが見られた.その頃すでにAI-Pが43.6KA,LDH 730wn,CRP(6+)と悪化していた.この時点で家族に膵癌,とくに発見の困難な体尾部のものが原発で,肝,骨に転移しているのであろうと話した.その後嘔吐発作がつづき,腹部膨隆著明となり,腸閉塞症状にて突然死亡した.
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