今月の主題 痛みとその対策
疼痛への対処
癌末期
橘 直矢
1
1東大麻酔科
pp.664-665
発行日 1976年5月10日
Published Date 1976/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402206566
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決め手のない現況
癌性の疼痛といえども,その理想的治療が原因除去による除痛であることは当然であるが,原因除去,すなわち癌の根治は未だに悲観的な現状にある.とくにいわゆる癌末期では癌そのものはいかんともしがたく,死を待つのみである.この時期に,激痛に悩む症例は珍しくない.癌,とくに末期癌の疼痛に対して,原因療法という理想の治療法が存在しない情況でこそ,理想の鎮痛剤が望まれることになるが,このような薬物はこれまた現存しない.いかなる原因が存在放置されたままであろうとも,これに起因する痛みは全く除かれ,しかもその他の感覚は正常に保たれ,当該原因以外で新たに侵害性要因があれば,同じ部分,他の部位を問わず疼痛が起こる—このような状態を作れれば,理想的鎮痛剤といえるであろう.しかし,これは存在しない.
したがって,原因不明の痛み,原因が明瞭でも癌末期のごとく,原因療法のできない痛みの除痛は極めて困難な問題となってくる.麻薬性鎮痛剤を含めて,現存の鎮痛剤は効力の程度,効力の持続からいってはなはだしく不十分であり,時に副作用を償う有用性がない.このような症例ではしばしば神経ブロックや外科療法の適応性が考慮されるが,適応はかなり限定された症例にしかない.いわゆるelectroacupunctureや,硬膜外腔に電極を留置して電気刺激する方法などの物理的刺激療法も,効果の面で信頼性に劣り,決定的治療法とはいえない現況にある.
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