私の経験例
Munchausen症候群
高橋 徹
1
1大阪府立病院救急医療専門診療科
pp.1888
発行日 1977年12月5日
Published Date 1977/12/5
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402207543
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診断上の陥穽のあった症例として,まず頭に浮かぶのは,7年も前になるが,私が米国コネチカット州のある総合病院で入院係をしていた頃,救急室のレジデントから電話を受け,1人入院させたいが一度みてくれといわれた患者である.
患者は24歳女.見たところ元気で顔色も悪くない.主訴は嘔気,嘔吐.現病歴は患者自身によるとこうである.英国の病院で脳腫瘍と診断され,1週間前まで入院してその治療を受けていた.その入院前より強度の頭痛,嘔気あり,また視力障害があり,今もそれは残っている.化学療法,放射線療法を受け症状は軽快したが顔がこうなった,と長い茶色の髪のかつらをとり,70%ぐらいの頭部の脱毛を示した.米国には知人を頼って旅行してきたが,その途中で嘔気,嘔吐が出現してきたためこの病院へ立ち寄ったらしい.うら若き女性とalopeciaという最も似つかわしくない組み合わせに,私はなるほどとうなずき,患者を入院させた.神経学的には簡単に検べて両眼の半盲があるが,乳頭浮腫なくルンバールも正常であった.翌日の神経科専門医の診療でやはりhemianopsiaが存在し,後頭葉のmassが考えられるとのことであった.病棟での回診時,彼女は読書していたが静かな微笑を浮かべて私にいった.「おかげ様で嘔気もおさまり気分がよろしいです.
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