特集 女性と健康
エディトリアル
これからの女性の健康問題
松原 純子
1
1東京大学医学部
pp.76
発行日 1986年2月15日
Published Date 1986/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207201
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大多数の女性は今まで,「成人したら男は社会で活躍し,女は家庭を守るべきだ」という社会通念に従って成人し,家事に専念し,明日の労働力の再生産の基礎として,夫や子供達の健康を守り育てるための日常的労働に従事してきた.男性を中心とした物質生産労働と,女性による生命生産労働という性別役割分業は,科学技術と能率的な官僚機構に裏付けられた現代の高度産業社会の原動力として位置づけられ,大きな物質的繁栄をもたらした.けれどもその結果人々は,社会では能率主義,学校では序列主義にせき立てられ,知識の細分化,社会の情報化,価値の多様化の波の中で,老いも若きも生き方の方向性を見失っている.こうした社会では家庭でも学校でも,人々が子供達に人間としてのやさしさを教えることは困難であり,環境破壊や子供の非行の問題が現れるのは当然の成り行きである.最近では人々の大きな関心が教育と健康の問題に集中しはじめている.
折しも「国連婦人の10年」という国際的潮流の中で,女性特有の政治的社会的問題にも眼が向けられている.こうした時こそ女性は,日常の生活や健康の維持に深くかかわるなかで,人間の心のやさしさやいのちの営みの大切さに深い関心を持ち続けてきた「女の視点」の本質に自ら光を当て,それを「人間の視点」として強調し,男女協力の上に新しい「生活の科学(サイエンス・オブ・ライフ)」を樹立する作業をはじめる必要があろう.
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