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Ⅰ.はじめに
近年は,がんに罹患してもがん治療薬や支持療法の進 歩によって,長期生存が可能になっている.stage Ⅳ期の非小細胞肺がんも全身状態がよい場合には,がん薬物療法が全生存期間の延長だけでなく,quality of life(以下,QOL)の改善も示されている1).遺族調査によると,がんが進行しても積極的治療を受ける患者は多く,亡くなる1カ月前が65%,2週間前でも48%が治療を継続していた2).しかし,人生の最終段階における医療について,医療者や家族と詳しく話し合ったことがあるのは2.7%に過ぎず3),米国の終末期のQOL 関連因子の研究では,QOL のマイナス要因に「最期の週まで化学療法を受けたこと」4)があげられていた.つまり,十分に周囲の人と話し合い,納得した選択ができていたのか,本人への意思決定支援が不十分なまま,最期まで積極的治療を受けている可能性が考えられた.
本研究はこの問題を一事例の看護実践(以下,実践)の分析を通して考えるものである.事例は,がんの進行により難渋する痛みが持続し,積極的治療の効果は乏しくても副作用が顕著となるなか,治療の継続が唯一の選択肢であるととらえていた患者が,看護師との関わりを通して,自身で治療中断や退院の選択に至ったものである.実践渦中では自覚的ではなかったもののその場でやり遂げられていた看護師の意図と意味(実践の暗黙知)を明らかにすることを目的とする.このことは,一事例がもつ文脈性および患者・看護師間のケアリングを排除せずに分析し言語化することで,その一事例の物語性によって読者やほかの看護師に触発性をもち,知として伝播することになる5)と考えた.
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