巻頭言
やわらかな身体の復権
内村 英幸
1
1国立肥前療養所
pp.1250-1251
発行日 1993年12月15日
Published Date 1993/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904975
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最近の子供は,転んでもとっさに手をつかず額を打ってしまうとか,片足飛びができないとか,身体のやわらかい協調的な動きがうまくできないとよくいわれてきた。教師の問題児事例検討会で,小学2年生の子供が話題となったことがあった。衣服の着脱がうまくできない。マンガを書く場合には5本の指のある手を書いているのに,手を出してごらんと言っても,手という意味がわからず,どうしてよいかわからない。椅子に座ってもずり落ちる。首とか肩とかを分離させて動かせない。暖かいとか寒いとか形容詞がつくとその意味はさらにわからない。発達性失行失認と運動協調障害ともいえる現象である。
この子は,5歳頃までおんぶしても身体をあずけず,母と視線が合わずに一人遊びのみで,自閉的であった。しかし,5歳頃より父母を探し,接触するようになってきたという。IQは130以上もある。身体接触が可能になって情緒的交流もできるようになると,身体の動きも,分節的にひとつひとつ教えるとできるようになってきている。身体接触と他者との共振を通して,自閉的世界から脱出し他者世界に開かれて,やわらかい身体の協調的な動きや身体感覚が生じてきているようで非常に興味深かった。
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