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はじめに
本特集において,企画担当の亀山隆先生から「軽症頸椎症性脊髄症の治療戦略—積極的に手術をする立場から」というタイトルで原稿依頼をいただいた.しかし,筆者の立場は「積極的に手術をする」わけではなく,「軽症である(JOAスコアが高い)ことだけで機械的に手術適応がないと決めつけることには反対である」というものであり,表記のタイトルに変更させていただいた.
基本的に頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy:CSM)というのは,加齢変化に伴う脊髄圧迫によって四肢麻痺(脊髄症状)が起こる病態である.特に,軽症のときは命に直接関わるというわけでもないので,病気というより自然な加齢の範疇とも考えられる.しかし,脊髄症状は基本的に不可逆であるだけに手術適応に関しては以下の事項について勘案せねばならず,手術するかどうかについては患者も医師も迷うことが多い.
1.脊髄圧迫は加齢とともにきわめてゆっくりと進行する.
2.脊髄圧迫を根本的に軽減する保存的治療法はない.
3.脊髄症状の重症度は必ずしも脊髄圧迫の程度とは相関せず,動的因子の影響もあるため,どのくらいのスピードでどう進行するかは予測できない.長期にわたって変化のないことも多いが,徐々に悪化することや,軽微な外傷をきっかけに一気に不可逆的麻痺が進んでしまうこともある.
4.脊髄症状は基本的には不可逆である.手術をしても改善しない症状もあり,しびれなどは軽快しても完全に消失することはまれである.一般的に重症度が高いほど,手術が後になるほど,また高齢になるほど改善しにくい6,7,14).
5.最終手段である手術でできることは,脊髄の圧迫(および動的因子)の除去だけである.手術をしたからといって,脊髄が若い頃のような健全な状態に戻るわけではなく,手術でさえも根本的治療とはいえない.
6.四肢の運動機能低下には,サルコペニアなど脊髄以外の器官・組織の加齢による機能低下も影響している可能性がある.
7.手術には一定の確率でリスクや合併症が伴う.
このように,加齢変化を基盤として命よりもquality of life(QOL)に強く影響する不可逆性の病態に対して手術をするかどうかは,患者の人生観,つまり加齢に対する捉え方や若い頃のように活動ができることの重要性,それに加えて診断の確度や手術合併症の確率など治療に対する理解力,そしてそれらに関しての医師の説明の仕方によるところが大きい.本稿では,これらについて自験例をもとに考察するが,どうしてもnarrativeになってしまうことをご容赦いただきたい.また,上記1〜7は頸椎後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)や黄色靭帯骨化症(ossification of the yellow ligament)などにもあてはまるので,CSMだけでなく包括的に頸部圧迫性脊髄症について述べる.

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