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Seishin Igaku Volume 67, Issue 6 （June 2025）

精神医学 67巻6号（2025年6月発行）

Japanese English

特集時代とともに変わる精神疾患—その変化の本質を理解する

心的外傷後ストレス症（PTSD）と遷延性悲嘆症 Posttraumatic Stress Disorder and Prolonged Grief Disorder 飛鳥井望 ¹ Nozomu Asukai ¹ ¹特定医療法人社団青山会青木病院 ¹Aoki Hospital, Tokyo, Japan キーワード：心的外傷後ストレス症 , posttraumatic stress disorder , PTSD , 診断基準 , diagnostic criteria , 診断基準の変遷 , transition of diagnostic criteria , 遷延性悲嘆症 , prolonged grief disorder Keyword: 心的外傷後ストレス症 , posttraumatic stress disorder , PTSD , 診断基準 , diagnostic criteria , 診断基準の変遷 , transition of diagnostic criteria , 遷延性悲嘆症 , prolonged grief disorder pp.886-893

発行日 2025年6月15日 Published Date 2025/6/15

DOI https://doi.org/10.11477/mf.048812810670060886

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抄録

　米国精神医学会による1980年刊行のDSM-Ⅲにおいて初めて診断カテゴリーとして登場した心的外傷後ストレス症（PTSD）の症候論は，1940年代の戦争神経症の臨床観察を土台とした。その後改訂を重ねた現行の診断基準においても，「再体験・回避・過覚醒」の3症状が揃うことが，変わることなく診断の要件となっている。PTSD病理の中核はトラウマ体験の記憶にあるという疾患論から，発症契機となる外傷的出来事の基準は存続し，改訂とともに，より具体的に明示されている。また，治療的有効性が確立された認知行動療法の知見から，症状構成上，かつての精神麻痺は現在では認知と気分の陰性変化として組み替えられた。複雑性PTSDに関しては，他に特定不能の極度ストレス障害（DESNOS）的症状をPTSD診断の一部に取り入れたDSMと，PTSDとは別に括ったICDとで立場が相反している。遷延性悲嘆症は，DSMとICD双方の現行基準でようやく公式診断として採用されたが，これも1940年代以来の長年の悲嘆研究の成果が実ったものである。