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はじめに
愛する人の死は,避けて通ることのできない最もストレスの高いライフイベントで,遺された者に喪失感と強い悲しみを生じさせる。多くの場合,こうした悲嘆反応は専門家の助けなしに,時間の経過とともに和らいでいく。しかし,一部の人においては,悲嘆が長期にわたって持続し,その後の健康状態にさまざまな影響を及ぼすことがある。このような悲嘆症状を呈する状態は,複雑性悲嘆(complicated grief:CG)などと呼ばれ研究が行われてきた。CGは悲嘆反応が長期にわたって持続するだけでなく,希死念慮や自殺企図,がんや心疾患,免疫機能障害,および生活の質(quality of life:QOL)の低下などとの関連や,心身の健康問題に支障を来すことなどが多数報告され1〜4),CGが専門的な治療が必要な精神障害として捉えられうるかについての研究が進められてきた5)。そうした研究の集積により,CGは2019年には世界保健機関(World Health Organization:WHO)の国際疾病分類第11版(International Classification of Diseases 11th:ICD-11)6)にて,2022年には米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版の改訂版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5-TR)7)にて,遷延性悲嘆症(prolonged grief disorder:PGD)という1つの精神障害として診断基準が取り入れられることになった。
本稿では,PGD罹患者を早期発見し,適切なケアや治療につなぐことを目的に,これまでCGやPGDの症状評価尺度として用いられてきたBGQ(Brief Grief Questionnaire),ICG(Inventory of Complicated Grief),およびPG-13(Prolonged Grief Disorder-13)について解説する。
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