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はじめに
ハラスメントの発生には、組織文化や組織構造といった環境要因の関与が指摘されている1,2)。しかし、同一の環境下においても行動の発現には個人差が認められ、その差異には行為者の心理的要因が関与している可能性がある3)。
2020年6月の「改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」の施行を契機として、大学においてもハラスメント規則の整備や相談窓口の設置などの取り組みが進められている4)。さらに、社会全体におけるハラスメントやコンプライアンスへの意識の高まり5)を背景として、さまざまな学問領域でのアカデミック・ハラスメント(以下、アカハラ)が報告されている5,6)。なお、本稿では、アカハラを「研究教育機関において、上位の立場にある者が、その意図にかかわらず、権力関係を背景に、下位の立場にある者を利用すること、または不利益や苦痛を与える言動」7-10)と定義する。
アカハラの特徴の1つとして、教育という名目のもとで、行き過ぎた指導や私生活への干渉が正当化されやすい点が挙げられる11)。看護領域においては、人の生命に関わる専門職を養成するという性質上、厳格な指導が必要とされる場面がある。しかし、このような状況は、指導とアカハラの境界が曖昧になりやすい。
このように、教育目的によって問題行動が正当化されやすい状況では、アカハラ行為者が自身の言動をどのように認知し、どのように正当化しているのかを理解することは、アカハラ予防の観点から重要である。しかし、こうした認知的側面を含む心理傾向を体系的に評価する枠組みは、これまで十分に確立されていなかった。
そこで筆者は、理工系学部や医歯薬学部などの理系研究環境(以下、理系アカデミア)で生じるアカハラ予防を目的として、2021年に文部科学省科学研究費補助金基盤研究B(21H03171)の助成を受け、「アカデミック・ハラスメント傾向尺度:理系アカデミア版(AHTS-SA)」を開発した。本尺度は、自己中心的特権意識、エイジズム、情緒制御困難性の3因子57項目で構成され、アカハラ行為者の心理傾向を測定する[表]8)。本尺度およびその開発過程は、2025年7月に『Journal of Academic Ethics』に掲載された8)。本稿では、AHTS-SAによって測定される心理傾向が、どのような認知的過程を経てアカハラ行為の発現につながるのかを、特にその正当化過程に焦点を当てて検討する。

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