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木下先生とは,萱間真美先生(現国立看護大学校)が代表者である科学研究費補助金註1の研究班に合流した際,ご一緒させていただいた。質的研究の査読について議論するグループであったが,木下先生は私が合流する前から萱間先生方と活動をしており,質的研究の査読ガイドライン註2の作成等を行っていた。この研究班では,私は主に,学会の編集委員長や編集委員を担当した方へのインタビューをしたり,現象学的研究の査読のポイント等について発言をしたりした。そのため,自ずと木下先生とは質的研究の査読の課題等について議論をするものだと思っていた。
研究班で,研修会を行った日だったと記憶している。木下先生と私が発表者で,比較的近い席に座っていた。発表後の休憩時間に雑談をしていると,木下先生のほうから「一度,あなたの研究のプロセスをインタビューさせてもらいたい」とお声がけいただいた。どんな内容かと尋ねると,データを分析していくプロセスが知りたいとのことだった。木下先生は私の文章を読んで,現象学的研究で行っている先入見の「捉え直し」「棚上げ」を,研究開始前のみならず,すべての過程でそのつど行っているのではないか,と推測されており,それをどのようにしているかを知りたいとのことだった。論文の研究方法や研究デザインにおいて,私は先入見の棚上げを論じているが,実際には,研究のすべての段階でこの態度は効いていた。それを木下先生は,私が書いた文章から見抜いたのではないか? と,当初は思った。また,私が行っているこの棚上げと,それによって可能になるはっきり自覚されていない次元の経験の分析・解釈が,M-GTAの分析に通じると考えておられたようだ。研究成果の提示の仕方は違っているが,研究のプロセスの中で思考していることに共通点を見て取っておられたようである。それは木下先生が,多様な質的研究方法を差別化する方向にではなく,考え方や方法を,柔軟に取り入れて研究を進めることを願っていたからかもしれない。
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