特集 【研究する人間】木下康仁先生の功績と足跡
Ⅰ.研究者として,教育者として—木下康仁先生との在りし日
Ⅰ-2 看護学との邂逅
学問追究に対する熱い思いを秘めた生粋の研究者
麻原 きよみ
1
1大分県立看護科学大学
pp.27-28
発行日 2025年2月15日
Published Date 2025/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.002283700580010027
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木下先生の訃報を聞いた時,思い出したのは先生が手術される1か月程前のエレベーター内での会話である。先生は当時,スムーズな歩行が困難な状態であった。私が同様の手術をした知人の例を出し,「先生は手術後,きっと走り回られていると思いますよ」と話しかけると,先生の口元に少し笑みが浮かんだように見えた。木下先生のことである,手術後,研究者として,教育者としてなすべきこと,やりたいことがスケジューリングされていたに違いない。木下先生から私は何を学んだのか,改めて考えてみた。
木下先生が聖路加国際大学に看護社会学の特命教授として赴任されてから,質的研究を方法論とする多くの院生の教育や指導,論文審査をしていただいた。論文審査では,木下先生のご指摘はいつも実に的を射た本質を捉えたものであり,学生のリサーチクエッションに対する自らの解釈を示されることも多かった。学生は方法論の理解を深めることができるだけでなく,自身は何を研究していたのか,研究目的や意義を確認し直すことで分析の方向性をつかみ,進める機会となっていた。私は木下先生のコメントから,特定の理論から現象を捉える視点,研究する現象を成り立たせ説明し得る厚みのある深い解釈を知ることができた。また,学生指導の姿勢やコメントの仕方などを学ぶことができた。だから私は,木下先生と院生の論文審査に入ることが楽しみだった。多くの教員がそうだったと思う。木下先生の影響は学生と教員にとって計り知れないものだった。
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